非現実のような現実−ぼくがオペを受けた顛末 #2

オペは無事に終わっても、ぼくは少しも落ち着かなかった。
ぼくから切り取られた組織がいまは試験管の中に入っていて、
検査をうけている。
痛みはいざ経験してみると、なんだ、こんなもんか、という程度。
翌日の昼からはもう痛み止めも必要なかった。
ところで最初にガンかもしれない、と言われたときから
ぼくの中で何かが変わりはじめたような気がする。
だってぼくはまだ若いし・・・
でも、もっとほんとうに正真正銘、誰から見ても若い連中と比べたら、
それほど若くはない。
それどころか、急に年寄りになった気分。
ぼくは、トイレに行きたくなるたびに車椅子を持ってきてもらうのが
いやで、狂気じみたひどい歩き方で、トイレまで
体を引きずっていく。
しかもトイレが近いせいで、ばかみたいに何度も行かなきゃならない。
そして一日に何度もこう自問するんだ。
「ぼくってガンなのかな。ずっとこうやって入院してなきゃ
ならないのかな。死ぬまでこうなのかな」
そして別のぼくが弱々しい声で反論する。
「まさか。ぼくがガンなわけないじゃないか」
そしてぼくは思う。
「ああ、ぼくってガンなのかな。両親より先に死んでいく運命なのかな。
放射線治療もうけるのかな。頭もハゲになるのかな。
何年ぐらい生きられるだろうな。
やせ細ってガリガリになるかな。
死ぬときはああ痛い、苦しい、モルヒネもっとちょうだいって
言いながら死ぬのかな」
そしてぼくは思う。
「おれはガンじゃないよ!!」
そしてぼくは思う。
「ぼくは死んだら英雄になるんだろうか。
ぼくの物語にみんなが涙するんだろうか。
あいつはガンと戦って死んだ、勇敢なやつだったって」
そしてぼくは思う。
「いや、そうじゃなくて・・・」
そして、それだけで一日が終わる。
病院での、ぼくのもやもやした一日。うんざりする。