クトゥルー中毒症

最近、とても眠りが浅い。
朝起きると、一晩中夢を見ていたような気がして起きたときとても疲れて
いる。なぜなのだろうか。自律神経失調症がまだ治ってないのかはたまた
その薬のせいなのか。
いや、もしかして…。俺は見る夢に関して奇妙な共通点があるのに気がつ
いている。それはとても恐ろしい夢なのだ。
覚えている限りにおいては、それはいつもこんなふうだ。
俺は何処とも知れない暗い森の道に立っていて、まるでめまいがするよう
にその景色がぐるぐるとまわる。そうするとそのなかにどよんとした魚の
ようなおぞましい三つの目が現れる。そして耳をつんざくような詠唱が…
うざ いぇい! うざ いぇい!
しかしまだ夢から覚められない。
覚めることを許されていないかのように。俺もその詠唱に加わらなければ
という奇妙な確信が俺の中にある。
俺は何かを囲っているように円を描いて並んでいる人々の群れにいつしか
加わって、同じように何かに向かってとどまることを知らない詠唱を唱え
ていることに気づく。
らあん てごす! らあん てごす! らあん てごす!
まるで半分獣の吼え声のようだ。頭がガンガンしてくる。しかし自分が発
しているその声を止められない。止めることを考えられない。
まるで狂ったように叫び続けることしか俺にはできない。
あの目が見つめている…あのぞっとする、異界的な三つ目が…。
詠唱が高まり、薄れ、また高まる。
俺の周りで吼えるように叫んでいる者たちは、みな獣の皮のようなものを
かぶっていて、まるで森の奥深くに棲む秘められた獣人が月に向かって吼
え声をあげているみたいだ。俺も彼らの一員、原初的な恐怖の祈祷者の一
員なのだ…逃れることはできないとわかっている…
らあん てごす! らあん てごす! らあん てごす!
単調な詠唱は堪えられないほどまでに耳に響き、妙なエコーのような効果
を引き出して俺を悩ませ続ける…。
以上が俺のおぼえているすべてだが…だがはたしてそれがほんとうだと言
い切れるだろうか。俺は疑問を感じている。しかし、確かに夢は毎晩続く
のだし、それに、さらに恐ろしいことに、俺は同じ下宿に住んでいる友人
からこんな話を聞かされたのだ。
「昨日の夜中、目が覚めたんだ。何か音がした、すぐに気がついたよ。ド
アの閉まる音だった。玄関のドアの音だと思った。誰かが出て行ったんだ
…あんな夜中にさ。それに最近、森の方角から夜中に変な声が聞こえるっ
て噂を聞くだろ。獣の遠吠えみたいな、変な声らしいけど、獣がいるとし
たら、すごくたくさん集まっているはずだよ。僕が昨日聞いたのはそうい
った声だったからな…何か、どこかの悪徳宗教団体が、信者を集めて集会
を行なってるんじゃないかってみんな言うけど、お前、どう思う?マーカ
ス。夜中に起き出して、僕たちの中で誰かその集会に行ってるなんてさ。」


※最初の2行だけ事実です。